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顧問料をいくらにするか。開業準備で決めることの中で、これほど「正解が見えないまま決めなければならない」項目はほかにありません。相場を調べても幅が広すぎ、同業の先輩に聞いても事務所ごとに前提が違います。
筆者は2026年2月に開業した税理士です。開業後、まだ顧問先が少なく手が空いていた時期に、事務所ホームページの作成と並行して料金表を作りました。2026年7月時点まで、一度も改定していません。
この記事では、実際に運用している料金表を「どういう手順と、どういう基準で組み立てたか」に絞って公開します。顧問料の実額(月額いくらか)は本記事では扱いません。実額と、そこに至るまでの試算過程は後日noteで公開予定です。
顧問料はいつ決めればいいですか?
顧問料は、まだ顧問先が少なく時間に余裕がある時期に決めるのが最も安全です。理由は単純で、値決めを迫られている状態で決めると、金額は必ず安いほうに寄るからです。筆者は開業後に手が空いていた時期、ホームページ作成と同時に料金表を作りました。
顧問料の相談は、たいてい「今まさに契約したい相手が目の前にいる」タイミングで発生します。しかも開業直後は、預金が減り続けている時期と重なります。この状態で提示金額を考えると、判断の軸が「いくらが妥当か」ではなく「いくらなら断られないか」にすり替わります。
筆者自身、預金が減り続ける時期に「安くてもいいから受けたい」という気持ちになったことがあります。その経験は別記事で書きました。
→ 関連記事:開業してから困ったこと5選|実務知識・資金・孤独
料金表は顧客に見せる資料である以上に、追い込まれた自分が迷わないための資料です。
料金表がない状態で最初の見積もりを出すと、その1件の金額が実質的に自分の基準として固定されます。
なお筆者は2026年7月時点まで料金表を改定していません。改定不要なほど完璧に作れたというより、落ち着いた状態で納得して決めたので、動かす理由がまだ出てきていない、という感覚に近いです。
開業資金を厚めに用意しておくことは、この「落ち着いて決められる時間」を買うことでもあります。
→ 関連記事:税理士開業資金はいくら必要?費用内訳と実額を公開
資金に余裕がない時期の値決めは、値決めではなく妥協になります。
料金表は何で区分すればいいですか?

筆者の料金表は「顧問契約」「記帳代行」「決算のみ」の3区分です。ただし、区分そのものと同じくらい重要なのが、料金表に載せない業務──つまり受けない業務を先に決めておくことです。
顧問契約は個人事業主と法人が対象で、記帳代行はそのオプションとして扱っています。決算のみの契約はマイクロ法人に限定しました。
一方で、明確に受けないと決めた業務が2つあります。
ひとつは、事業所得の年1回だけの申告です。件数を積めば売上にはなりますが、3月に業務が集中し、既存の顧問先に向けるべき時間まで削ることになります。もうひとつは、税務調査対応だけを単発で受ける依頼です。ただしこちらは、調査後に顧問契約へ進むことが前提であれば、調査の段階から受けています。
受ける業務を書き出す
受けない業務を決め、その線引きを自分の中で言語化する
規模を測る基準を1つに絞る
決算報酬を月額と連動させる
「受けない業務」を先に決めておくと、断る場面でその都度理由を考えなくて済みます。
年1回の申告だけを大量に抱えると、3月に自分の首が絞まります。
実際、問い合わせの中には「税務調査だけ見てほしい」という相談も一定数あります。問い合わせの内訳や不成約の理由については、営業の記事にまとめています。
→ 関連記事:顧問先ゼロから始める税理士の営業方法
受ける仕事より、受けない仕事を先に決めたほうが料金表は早く固まります。
顧問料の金額は何を基準に決めますか?

筆者が基本の物差しにしているのは年間売上高です。規模が大きくなるほど税務上の判断が増え、こちらが負うリスクも増えるためです。そのうえで、業種の煩雑さ・記帳代行の有無・仕訳数で調整しています。
顧問料とは、毎月の会計処理の確認や税務相談に対する報酬であると同時に、税務判断のリスクを引き受ける対価でもあります。この定義を先に決めておくと、金額の上下を説明できるようになります。
| 基準 | 何を見るか | 使いどころ |
|---|---|---|
| 売上規模 | 年間売上高 | ベースの金額を決める |
| 業種の煩雑さ | 取引形態・現金商売・在庫・外注の多さ | 煩雑な業種は別途加算する |
| 記帳代行の有無 | 自計化か記帳代行か | 代行する場合は加算する |
| 仕訳数 | 月次の仕訳件数 | 記帳代行のときだけ使う |
作業時間を基準にしなかったのは意図的です。時間を基準にすると、自分が慣れて処理が速くなるほど報酬を下げなければならなくなります。
リスクを基準に据えると、作業が速くなっても値下げする理由が発生しません。
時間単価だけで値決めすると、自分が成長するほど報酬が下がる設計になってしまいます。
規模が大きい顧問先ほど、何もなかった年に「何もありませんでした」と言い切る責任が重くなります。
決算報酬は月額の何ヶ月分にすればいいですか?

筆者は決算報酬を独立した固定額にせず、顧問料の月額と連動させています。個人事業主は月額の3ヶ月分、法人は4ヶ月分。消費税の申告がある場合は、それぞれ1ヶ月分を加算する設計です。
| 区分 | 決算報酬 | 消費税申告がある場合 |
|---|---|---|
| 個人事業主 | 月額の3ヶ月分 | 1ヶ月分を加算 |
| 法人 | 月額の4ヶ月分 | 1ヶ月分を加算 |
※2026年7月時点の設計です。
法人を4ヶ月分としているのは、法人税申告書は別表の作成量が多く、地方税の申告も加わるためです。消費税で1ヶ月分を加算するのは、申告書が1本増え、そのぶん判断とリスクが増えるからです。
この方式の利点は、規模別の料金表を細かく作らなくても整合が取れることです。売上規模に応じて月額が上がれば、決算報酬も自動的に上がります。ひとり事務所では、料金表の行数が増えないこと自体が管理コストの削減になります。
月額と決算を連動させておけば、規模別の決算報酬表を別途作る必要がありません。
決算報酬を固定額にすると、規模が大きい顧問先ほど相対的に割安になります。
決算報酬は年に一度の大仕事の対価というより、1年分の責任を締めるための対価だと考えています。
記帳代行はいくらに設定すればいいですか?
筆者はクラウド会計に限定して業務を受けており、基本は顧問先の自計化をすすめています。そのうえで記帳代行も受け付けていますが、1仕訳あたりの単価は相場よりも意図的に高く設定しています。
理由は、記帳代行を安く受けると、自分の時間をそのまま安値で売ることになるからです。ひとり事務所が対応できる件数には上限があるため、時間の使い方は単価と同じくらい重要な設計要素になります。
価格は、顧問先にどちらを選んでほしいかを伝える手段でもあります。自計化のほうが総額として安く収まる状態を価格で作っておけば、説得しなくても自然に自計化へ向かいます。
とはいえ、簿記の知識がまったくない事業主も実際にいます。その人たちの選択肢を消してしまうのは違うので、記帳代行という受け皿は残しています。単価を高くしているのは「やらせないため」ではなく、本当に必要な人だけが選ぶ状態にするためです。
記帳代行の単価は作業の対価であると同時に、どちらを選んでほしいかという意思表示です。
記帳代行を高くしているのは断るためではなく、必要な人だけが選べるようにするためです。
値引き交渉には応じるべきですか?
筆者は応じません。断ります。地方では「あの事務所は値引きに応じる」という評判が想像以上の速さで広がり、気づいたときには低単価の依頼で枠が埋まってしまうためです。
ひとり事務所が受けられる件数には上限があります。安い枠が先に埋まれば、後から来た依頼を受ける余地はありません。値引きに応じた1件は、その1件だけでは終わらないということです。
一方で、「高い」という理由で不成約になる案件は実際に一定数あります。ではそれは価格が高すぎるのかというと、筆者はそう捉えていません。契約に至った顧問先が挙げた理由は、価格ではなく体制に関するものが中心でした。
税理士を変更して来られる方の話を聞くと、この裏返しの不満が挙がります。担当が税理士ではなかった、営業時間内にしか相談できなかった、チャットなどで連絡が取れなかった、所長税理士に会ったことがない、といったものです。
これは他の事務所の体制を否定する話ではありません。担当者制も訪問中心の運用も、規模や方針を考えれば合理的です。単に、その形が合わないと感じた人が動いているだけです。だからこそ、価格を下げてもこの層は取れませんし、価格を下げなくても合う層は来ます。
「高い」で断られる件数を減らそうとすると、選ばれている理由まで一緒に削ることになります。
値引きは既存の顧問先との公平性も崩します。
なお、税理士本人が発信を続けていること自体が「本人と直接やり取りできる」ことの証明になります。この点はブログ・SNS集客の記事で詳しく書きました。
→ 関連記事:税理士のブログ・SNS集客は有効か?Twitter運用の実体験
安くしないと決めた瞬間から、断ることが仕事の一部になりました。
顧問料は開業前と開業後、どちらで決めるべきですか?
どちらでも構いませんが、条件は「時間に余裕があるとき」です。筆者は開業後、手が空いた時期に決めました。契約直前に決めると、判断の軸が「妥当な金額」から「断られない金額」にずれます。
顧問料は相場に合わせるべきですか?
相場は、自分の金額が極端に外れていないかを確認する物差しとして使う程度で十分だと考えています。事務所によって業務範囲も使うツールも違うため、相場に合わせにいくと自分の原価と噛み合わなくなります。
値上げはいつすればいいですか?
一般には業務範囲が広がったときや、顧問先の規模が料金表の区分を越えたときです。ただし筆者は2026年7月時点で改定した経験がないため、改定の実務について書けることはありません。
料金表はホームページに公開したほうがいいですか?
公開すると、金額で折り合わない相談が問い合わせの前段階で減ります。筆者は公開しています。ただし公開する以上、値引きに応じないという運用とセットにしないと、表に書いた金額の意味がなくなります。
まとめ|税理士の顧問料の決め方は「決める順番」で決まる
顧問料の決め方でつまずく原因の多くは、金額そのものより順番にあります。受ける業務と受けない業務を決め、規模を測る基準を1つに絞り、決算報酬を月額に連動させる。この順番で組めば、金額は最後に自然と決まります。
そして最も重要なのは、それを目の前に相手がいない時期に済ませておくことです。料金表は顧客への提示資料であると同時に、追い込まれた自分に対する事前の拘束でもあります。
本記事では金額の実額に触れませんでした。実際にいくらで設定したのか、どう試算してその金額に着地したのかは、後日noteで公開する予定です。
実額を公開するnoteは現在準備中です。公開時にこの記事からご案内します。
開業までの全体の流れは総合ロードマップに、開業後のリアルな数字や失敗は体験談まとめにそれぞれまとめています。
→ 関連記事:【完全ロードマップ】税理士開業の始め方
開業後のリアルな数字や失敗談は、こちらにまとめています。