合格発表から開業まで、実際に使える時間は思っているより短いです。筆者は税理士試験の最後の3年間を無職の受験専念で過ごし、官報合格から約3か月で開業しました。それでも慌てずに済んだのは、開業準備の大半を「受験生のうち」に仕込んでいたからです。
この記事では、開業税理士である筆者が「開業前にやってよかった」と実感している4つの準備を、資金・人脈・スキルの実体験ベースでまとめます。
税理士の開業準備はいつから始めるべき?【筆者のタイムライン】

税理士の開業準備は、合格発表の後から始めたのでは間に合わない部分があります。特に「お金」と「スキル」は受験生時代から仕込めるもので、筆者も実際にそうしてきました。一方で「人脈づくり」は、税理士登録の進み具合に合わせて動き方を変える必要があります。
筆者のタイムラインはこうです。働きながら生活費を貯め、同時期にWordPressでブログ運営を開始。その後、最後の3年間は無職で受験に専念。官報合格後は登録手続きと並行して創業融資の準備と人脈づくりを進め、合格から約3か月で開業しました。
開業準備の大半は「合格してから」ではなく「受験生のうち」に始まっています。逆にいえば、受験生の今この記事を読んでいる方は、いちばん良いタイミングで準備を始められるということです。
合格発表から開業までは、登録手続きを含めても数か月しかありません。発表後に慌てないためにも、前倒しできる準備は前倒ししておくのがおすすめです。
振り返ると、受験生時代の仕込みがそのまま開業の土台になっていました。
生活費は何年分あれば無職受験から開業までもつ?

筆者は受験専念に入る前に、生活費のおよそ5〜6年分を確保してから仕事を辞めました。そこから3年間の無職受験を経て、合格発表の時点で残っていたのは約2年分。この「合格後に残る分」まで見込んで貯めておいたことが、開業準備で慌てなかった最大の理由です。
貯め方としては、働いていた期間にNISAを活用しながら積み立てました(投資には価格変動リスクがあるため、この点はあくまで筆者個人の選択です)。金額そのものは家族構成や生活水準で大きく変わるため、「いくら貯めるか」ではなく「生活費の何年分を、どの期間のために確保するか」で設計するのが実用的だと考えています。
合格した瞬間に貯金が尽きる計画では、開業のスタートラインに立てません。「受験に受かるまで」ではなく「開業して売上が立つまで」を1本の資金計画として考えることが、無職受験専念という選択を成立させる前提条件でした。
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開業資金は自己資金と創業融資でどう組み立てる?
生活費とは別に、開業資金そのものは自己資金と創業融資の組み合わせで用意しました。事業に使うお金を生活費と分けて確保しておくと、開業直後の売上が立たない期間でも、精神的な余裕をもって営業や実務に向き合えます。
創業融資については、「足りないから借りる」のではなく「手元資金を厚くするための選択肢」として検討しました。創業期には創業者向けの融資制度が用意されており、開業のタイミングは検討する価値のある時期です。ただし、返済は開業直後から続く固定費になるため、顧問料の設計とセットで考える必要があります。
開業資金の具体的な内訳(何にいくらかかったか)は、こちらの記事で公開しています。
融資は「借金」ではなく「開業直後の時間を買う手段」と捉えると判断しやすくなります。開業後は売上がゼロでも、税理士会の会費などの支出だけは毎月続きます。手元資金の厚さは、焦って安売りしないための防波堤にもなります。
筆者は自己資金と創業融資の組み合わせで開業資金をまかないました。手元が厚いと、開業直後の値付けにも余裕が出ます。
税理士登録前の人脈づくり|「税理士」と名乗れない期間はどう動く?

税理士試験に合格していても、税理士登録が完了するまでは「税理士」と名乗ることはできません。筆者は登録完了までの期間も、飲み会などの場に積極的に出て人脈づくりを進めましたが、名乗り方には細心の注意を払いました。
税理士法では、税理士でない者が税理士やこれに類似する名称を用いることを禁止しています(税理士法53条・名称の使用制限)。また、税理士でない者は税理士業務を行うこともできません(同法52条)。つまり合格者であっても、登録が完了するまでは「税理士です」と名乗ることも、業として税務相談を受けることもNGです(※2026年8月時点。出典:https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237)。
とはいえ、人脈づくり自体は登録前からできます。筆者は「税理士試験に合格し、いま登録手続き中です」「〇月に開業予定です」という伝え方で、異業種の集まりや同業の先輩との場に顔を出していました。開業直後の仕事は人づてで来ることが多く、この期間の顔つなぎは開業後に確実に効いてきます。
SNSのプロフィールや名刺の肩書きも同じルールです。登録完了までは「税理士」の文字を使わないよう気をつけてください。登録が完了する前に「税理士」を名乗ることは、税理士法で禁止されています。せっかくの人脈づくりが法令違反の入口にならないよう、名乗り方だけは徹底しましょう。
飲みの場でも「登録手続き中です」と正直に伝えて動いていました。誠実に伝えることが、そのまま信頼づくりになります。
受験生時代のブログ運営はどう活きた?HP自作という選択肢
筆者は受験生時代からWordPressでブログを運営しており、そのスキルがそのまま事務所HPの自作に活きました。開業時にHP制作を外注しなかったため、制作費はサーバー代とテーマ代程度。しかもAIを活用できる今は、文章作成や構成づくりのハードルが大きく下がっており、HP自作の価値はさらに上がっていると感じます。
外注したHPは、料金表の変更ひとつでも業者への依頼が必要になりがちです。自作なら思い立ったその日に更新でき、ブログとして発信を続ければ、それ自体が集客の資産になっていきます。「開業前に仕込める数少ない営業資産」がHP自作スキルだと筆者は考えています。
具体的な自作手順と総費用は、こちらの完全ガイドにまとめています。
税理士事務所のHP・ブログを自作する完全ガイド【総費用と手順】
ブログ・SNSが実際に集客に効くのかどうかは、筆者のX運用の実体験ベースでこちらで検証しています。
HPは「開業してから作るもの」ではなく「開業までに作れるようになっておくもの」。開業後に実務と並行してHP制作をゼロから学ぶのは、時間的にかなり大変です。受験の息抜きを兼ねて、少しずつ触っておくのがおすすめです。
当ブログも、この完全ガイドで紹介している方法とまったく同じ環境で自作しています。
やらなくてよかったこと・買わなかった物はある?
「やってよかったこと」の裏返しでいえば、開業前の買い物は「そろえすぎない」ことも大事な準備です。筆者自身、サブのノートPCのように「開業と同時に揃える必要はなかった」と後から感じた物もありました。判断の軸はシンプルで、「それは売上が立ってからでも買えるか」です。
開業前の設備投資は、売上ゼロ期間の資金繰りを直接圧迫します。筆者の失敗や「買わなくてよかった物」の具体例は、こちらの記事にまとめています。
失敗談は正直に別記事へ。この記事の「やってよかった」とセットで読むと立体的になります。
よくある質問
税理士の開業準備は何から始めればいいですか?
まずは資金計画からです。生活費と開業資金を分けて考え、「開業後に売上が安定するまで」の期間も含めて生活費を年数で見積もります。並行して、受験生・勤務時代からでも始められるHP・ブログ運営などのスキル面の準備を進めるのがおすすめです。
貯金が少なくても税理士として開業できますか?
一概には言えません。必要額は家族構成・固定費・開業形態(自宅か賃貸か)で大きく変わります。創業融資という選択肢もありますが、返済は毎月の固定費になるため、売上ゼロ期間を何か月耐えられるかを基準に資金計画とセットで検討してください。
税理士登録が終わる前に営業活動をしてもいいですか?
人脈づくりや開業予定の案内自体は可能ですが、登録が完了するまで「税理士」と名乗ることはできず(税理士法53条)、業として税務相談等の税理士業務を行うこともできません(同法52条)。「合格済み・登録手続き中」という正確な伝え方を徹底してください。
事務所のホームページは自作と外注どちらがいいですか?
更新頻度と、発信を集客に使いたいかどうかで判断するのがおすすめです。自分のタイミングで更新し、ブログとして発信を資産化したいなら自作が向いています。筆者は受験生時代に身につけたスキルで自作し、制作費をほぼかけずに開業しました。
まとめ|税理士の開業前の準備は「お金・人脈・スキル」を受験生時代から
税理士の開業前の準備として、筆者がやってよかったと実感しているのは次の4つです。
- 受験専念に入る前に、生活費を「年数」で確保した(合格後に残る分まで見込む)
- 開業資金は自己資金+創業融資で組み立て、手元資金を厚くした
- 登録完了前から人脈をつくりつつ、「税理士」と名乗らない線引きを徹底した
- 受験生時代のブログ運営で、HP自作スキルという営業資産を仕込んだ
どれも特別な才能ではなく、「早く始めたかどうか」だけの差です。合格発表を待ってから動くのではなく、受験生の今日から少しずつ仕込んでいきましょう。
開業初年度の売上・経費のリアルな実額は、noteですべて公開しています。
開業初年度の売上と経費を実額で公開
合格から開業初年度までの全体の流れは、こちらのロードマップで確認できます。